こんにちは。
ドッグトレーナーの岡元です。
今回はちょぴっとマニアック。
一般の飼い主さん向けではなく、ドッグトレーナーの卵さんなど向け。
心理学の「オペラント条件づけ」を学んだことがあるけれど、イマイチ「正の強化」「負の罰」と言った言葉が理解しきらず、モヤッとしている方向けのお話です。
そのため、普段は極力使わないようにしている専門用語が出てきます。
ご了承ください。
オペラント条件づけの「正」「負」「強化」「罰」について
オペラント条件づけとは?
「オペラント条件づけ」というのは、『ある行動をした結果、何が起き、環境がどう変化したかによって、人間も動物も適応的に行動することを学習する』ことを言います。
(実森正子/中島定彦:【学習の心理】サイエンス社 83ページより引用)
上記の言い方では難しいので、完全にイコールではないけど砕けて言うと
『行動の結果、得したらその行動を繰り返す。』
『行動の結果、損したらその行動をしなくなる。』
といった学習のことです。
犬の行動を分析する際に、この理論を利用します。
そのオペラント条件づけに出てくる基礎的な専門用語、「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」って案外わかりづらいですよね?
それって、「正」「負」「強化」「罰」という一つ一つの言葉を、ちゃんと理解していないせいではないかと思います。
今回はそれらの言葉について説明します。
1)「正」・・・『行動の結果、何かが現れること』
まずは「正」という言葉について。
上記の見出し通り、「正」=『行動の結果、何かが現れること』です。
例えば、
・犬がおすわりしたら、フードをもらえた。
・犬がテーブルクロスを引っ張ったら、お皿が落ちてきた。
一つ目は、座るという行動の結果、フードが現れています。
二つ目は、テーブルクロスを引っ張るという行動の結果、お皿が現れています。
それぞれ図解すると、
フード無し → お座り → フード有り
お皿無し → 引っ張る → お皿有り
と、行動の結果、あるものが『無しから有り』の状態に変化しています。
このように、『無かったものが、行動の結果、現れること』を「正」と言います。
なお現れるものは、好きなもの嫌いなものは関係ありません。
というわけでシンプルに説明するなら、
「正」=『無しから有りへ』
あるいは先に書いた通り、「正」=『行動の結果、何かが現れること』
と言えます。
2)「負」・・・『行動の結果、何かが無くなること』
「負」とは、『行動の結果、何かが無くなること』です。
例えば、
・犬が手を噛んだら、遊びが中断となった。
・犬が吠えたら、怖い人が逃げていった。
図解すると、
遊び有り → 噛む → 遊び無し
怖い人有り → 吠える → 怖い人無し
と、行動の結果、『有りから無し』に変化しています。
このように、『有ったものが、行動の結果、無くなること』を「負」と言います。
なお無くなるものは、好きなもの嫌いなものは関係ありません。
というわけでシンプルに説明するなら、
「負」=『有りから無しへ』
あるいは、「負」=『行動の結果、何かが無くなること』
と言えます。
3)「強化」・・・『行動が増えること』
「強化」とは『行動が増えること』。
以上です!
これ以上何も覚えなくて良いです。
行動についての心理学における強化という言葉は、そういう意味なんだと、そのまま覚えちゃってください。
4)「罰」・・・『行動が減ること』
「罰」とは『行動が減ること』。
以上!
これ以上なにも考えなくて良いです。
ただ、罰は言葉自体がややこしいんですよね。
一般的には処罰など、罪を犯したことに対してむくいを受けさせる意味で使いますよね。
そのせいで、損させることや痛い目に合うイメージが、言葉自体にあるんです。
でも行動についての心理学では、そのような意味合いはありません。
ただ「罰」=『行動が減ること』とだけ覚えてください。
ここまでのまとめ。「正」「負」「強化」「罰」とは?
1)「正」・・・『行動の結果、何かが現れること』
2)「負」・・・『行動の結果、何かが無くなること』
3)「強化」・・・『行動が増えること』
4)「罰」・・・『行動が減ること』
それぞれこういった意味の言葉なんですね。
これらの言葉の意味がわかっていると、「正の強化」や「負の罰」といった言葉も理解しやすくなります。
5)「正の強化」とは?
「正の強化」は、「正」と「強化」という二つの言葉の組み合わせです。
正=行動の結果、何かが現れること。
強化=行動が増えること。
つまり「正の強化」とは、
『行動の結果何かが現れて、その行動が増えること』
を意味するんですね。
例えば、
犬がお座りしたらフードをもらえたので、その後もっとお座りするようになった。
といった場合。
正の強化の説明に照らし合わせて上記を書き換えると、
お座りという行動の結果、フードが現れたので、お座りという行動が増えた。
となるわけです。
6)「負の強化」とは?
「負の強化」は、「負」と「強化」という二つの言葉の組み合わせです。
負=行動の結果、何かが無くなること。
強化=行動が増えること。
つまり「負の強化」とは、
『行動の結果何かが無くなって、その行動が増えること』
を意味します。
例えば、
犬が吠えたら怖い人がいなくなったので、もっと吠えるようになった。
これを負の強化の説明に照らし合わせて書き換えると、
吠えるという行動の結果、怖い人が無くなったので、吠えるという行動が増えた。
となります。
7)「正の罰」とは?
「正の罰」は、「正」と「罰」という二つの言葉の組み合わせです。
正=行動の結果、何かが現れること。
罰=行動が減ること。
つまり「正の罰」とは、
『行動の結果何かが現れて、その行動が減ること』
です。
例えば、
犬が吠えたら嫌な音を聞かされたので、吠えなくなった。
これを正の罰の説明に照らし合わせて書き換えると、
吠えるという行動の結果、嫌な音が現れたので、吠えるという行動が減った。
となります。
8)「負の罰」とは?
「負の罰」は、「負」と「罰」という二つの言葉の組み合わせです。
負=行動の結果、何かが無くなること。
罰=行動が減ること。
つまり「負の罰」とは、
『行動の結果何かが無くなって、その行動が減ること』
です。
例えば、
犬が噛んだら遊びが中断されたので、噛まなくなった。
これを負の罰の説明に照らし合わせて書き換えると、
噛むという行動の結果、遊びが無くなったので、噛むという行動が減った。
となります。
「正」「負」「強化」「罰」を理解していれば、「正の強化」「負の罰」といった言葉も怖くない!
どうでしょうか、「正」「負」「強化」「罰」という言葉について少しでもおわかりいただけましたでしょうか?
もしこの記事でモヤモヤがちょっとでも晴れたなら嬉しいです。
なお専門用語を「 」で、説明を『 』で囲っていますので、最後にその部分だけ読んで復習してみてくださいね。
それではまた!
参考文献
実森正子/中島定彦:【学習の心理】サイエンス社
杉山尚子/島宗理/佐藤方哉/リチャード・W・マロット/マリア・E・マロット:【行動分析学入門】産業図書
杉山尚子 :【行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由】集英社新書